説得型スピーチは「2階建ての未来図」を描く"明るい未来"で締める
聴衆を感動させるのは単純未来ではなく「その上にある暮らし」

説得型スピーチや誰かを説得するプレゼンの締めくくりは、問題解決後の未来図を語るのが基本。その明るい未来は、「問題が解決する」と語るだけでなく、その先にある新しい暮らしを描かなければなりません。なぜなら、聴衆が本当に知りたいのは、問題が解決したあとの「自分たちの日々の暮らしがどう変わるか」だからです。聴衆を行動へと導くのは「2階建て構造の未来図」です。明るい未来の語り方の基本を覚えましょう。
問題解決を呼びかけた結果、問題が解決するのは当たり前。
勝てる説得型スピーチの基本構造は、過去記事「説得型スピーチ構造用紙|連続入賞を達成する基本的枠組み」で解説しました。その最後に登場するのが「未来図」、いわゆる「明るい未来」です。これは、社会問題に噛みつき、その現状を立証し、解決を呼びかける、という一連の流れの「最後のひと押し」だとも言えます。
この明るい未来を印象的に語るコツは、「提示した社会問題が解決する」というだけの単純未来を語らないことです。聴衆が聞きたいのは、問題が解決したあとに訪れる「新しい暮らし」。さらにそこに暮らす自分たちの未来の姿です。
問題解決を訴えて、問題が解決するのは当たり前。そこに聴衆の感動はありません。その単純未来が平屋建て(1階建て)の建物だとすると、その先の新しい暮らしを提案する試みは、単純未来の上に築かれる「2階建て」家屋です。2階建てだからこその眺望や心地良さを描くのが、説得型スピーチにおける「明るい未来」の鉄則です。
ゴミ問題:解決後の明るい未来は爽やかな暮らし
具体的に考えてみましょう。増え続けるゴミ問題を訴える説得型スピーチを想定します。「明るい未来」を考える時、誰もが思いつく「ゴミの排出量が減る」「ゴミ出しの回数が減る」「埋立処分場が延命される」というのはどれも単純未来です。その「2階建て部分」に築かれる「新しい暮らし」はどんなものでしょうか。
たとえば「ゴミ出しの回数が減る」という単純未来の上に築かれる未来図を挙げてみましょう。
- 早朝の慌ただしさから解放され、心が落ち着く。
(ゆえに…) 仕事や学校を控えた精神状態が穏やかになる。 - 少し寝坊しても、家族や近所から怒られることがない。
(ゆえに…) ゴミ出しのない、穏やかな朝を迎えられる。 - 朝に、もう一杯 おいしいコーヒーが飲める。
(ゆえに…) 忙しい朝でも家族との時間が持てる。 - 有料ゴミ袋の出費が減った分で、1品おかずが買える。
(ゆえに…) 食卓で家族の喜ぶ顔が見られる。
これらの例は、どれも「2階建ての未来図」の見晴らしの良さが感じられるはずです。それぞれ2行目にある「ゆえに…」以降の展開は、そのまま明るい未来を語るスピーチの段落に書けそうなストーリーです。このように、問題が解決した先に何があるのかを、少し高い場所から眺めてみる姿勢が大切です。
広告やCM制作にも共通する「2階建ての未来図」の説得力
実はこの「2階建ての未来図」は、広告制作(コピーライティング)やCM制作の現場で、頻繁に用いられるテクニックです。コマーシャルでは、現状の生活にある不満を浮き彫りにし、解決策(商品)を提示し、それを聴衆に買わせます。いわば、何かを買わせるための説得型スピーチだと言えます。
一例として、食洗機のコマーシャルを考えてみましょう。まずCMでは、食器洗いの大変さや洗い残しを見せます。これが「問題提起」(不満の浮き彫り)です。続いて、食洗機で簡単かつキレイに洗浄できることを示します。これは「解決策(商品)の提示」です。そして最後に来るのが明るい未来の描写ですが、そこでは単にキレイになった食器を見せるだけではありません。必ず「食洗機のある暮らしぶり」が描かれます。
典型的な例としては、食洗機が動いている横で、若い夫婦がコーヒーを飲みながら談笑しているシーンや、ソファーでゆっくり雑誌を読んでいる光景が映し出されます。これは、「食器がキレイになる」という単純未来の上に築かれる「新しい未来図」です。聴衆はその描写によって、やっと「説得された後の明るい未来」(食洗機を買うメリット)を具体的にイメージできるのです。
ラジオCMのコピーライティングと、説得型スピーチの展開は、実はとても似ています。詳しくは、清水の論文「英語スピーチ講座におけるラジオCMコピーの活用と教育実践」(清水, 2007)で論じました。この発見の原点は、清水がかつてコピーライターとして広告制作業務に携わっていた経緯にあります。不特定多数を説得するコマーシャルと英語スピーチには、強い結びつきがあるのです。
明るい未来を描写するときは、2階建ての景色を語る。そんな心掛けを持っておくだけで、スピーチの締めくくりは実体的で、より感動的なものになります。次の説得型スピーチでは、どんな「2階建ての未来図」が見えるでしょうか。明るい未来を分かりやすく描写し、聴衆のハートをしっかり掴んでください!
(Reference)
▶ 清水利宏 (2005)「英語スピーチ講座におけるラジオCMコピーの活用と教育実践」鈴鹿大学研究紀要『CAMPANA』鈴鹿大学編, 第14号, pp. 87-102.