英語スピーチ上達のカギは"筋肥大"? 筋トレとプレゼンの意外な共通点
がむしゃらに鍛えるだけでは、語りも筋肉も成長しない。

がんばって英語を勉強しているのに、スピーチの語りが上達しないと感じたことはありませんか? その原因は、「英語の上達」と「語りの上達」は違うという点にあります。語りの上達のためには、言葉に気持ちを乗せるという特別なトレーニングが必要です。筋トレもまた、筋力を高めるのか、筋肉の成長(筋肥大)を目指すのかによってトレーニング方法が異なるのに似ています。
英語力=筋力、スピーチの語り=筋肥大、と考えてみる。
筋トレ経験者なら感じたことのある驚きに、「筋力と筋肥大は別」という事実があります。重いものを持ち上げる「筋力」の向上と、筋肉を大きくする「筋肥大」では、トレーニングのアプローチが異なります。筋肉ムキムキの人は筋力もすごいハズと思っていると、トレーナーから「必ずしもそうではない」という説明を聞いて驚くのです。
英語スピーチやプレゼンテーションの能力を分解して考えてみると、この「筋力と筋肥大の違い」に似たところがあります。スピーチには、感情を伝えて聴衆を惹きつける表現力、すなわち「豊かな語り」が必要ですが、「英語力=筋力」「豊かな語り=筋肥大」と仮定すれば、英語スピーチと筋トレの共通点をうまく説明できそうです。
まず「英語力」を考えます。英語スピーチで豊かな語りを披露する人が、みな英語力が高いワケではありません。スピーチは英語技能の総合格闘技のようなものですから、「英語力」と「豊かな語り」さには一定の相関関係があるでしょう。しかしこれまで毎年、全国大会で入賞を収めてきた私のゼミ生の特徴から見ても、「入賞者=英語力が高い学生」という確証はありません。
次に「豊かな語り」をみてみます。英語スピーチやプレゼンで求められる「力」とは、英語力よりもむしろ気持ちを伝える「語り」にあります。逆に、誠実かつ人間味あふれる「豊かな語り」は、資格試験で評定される「英語力」を追求する人にとってはあまり必要とされません。この現状は、競技種目によって、筋力は必要だが筋肥大は不要というアスリートがいるのと同じです。
プレゼンター向けのトレーニングは「語る力」優先で
結論的に述べれば、スピーカーに必要な力は、英語力よりも「語る力」です。どれだけ豊富な語彙で、高度な英文を駆使しても、原稿を棒読みするだけのプレゼンには「豊かな人間力」は感じられません。むしろ「冷たい人だなぁ」という印象さえ残るでしょう。
スピーチらしい語りの練習方法については、過去記事「【 100本ノック 】語りの素振り練習が実戦で差をつける」で説明しています。音の切れ目、抑揚、ストレス(強勢)など、「自然な語り」を繰り返しトレーニングすることで、スピーチ「らしい」語りが身につきます。逆に、この「100本ノック」を繰り返しただけでは英語力は向上しません。なぜなら、語る力の向上と英語力の向上は、目指すゴールもトレーニング方法も違うからです。
このことは、英語力や発音にいまひとつ自信がないスピーカーにとっては朗報かもしれません。英語スピーチやプレゼンにおいては、誤解なく意味が伝わる限り、正確な文法や発音よりも「その人が精一杯伝えようとする情熱」を感じられるスピーチのほうが優れているからです。またこの考え方は、全国レベルの英語スピーチコンテストの審査基準においても同様です。自信を持ってください。
豊かな語りを磨く「初心者ボーナス」を獲得しよう
筋トレには「初心者ボーナス」と呼ばれる期間があります。初心者ボーナスとは、これまで筋肉に強い刺激を与えてこなかった筋トレ初心者が、トレーニングを始めた約6ヶ月間に筋トレの効果が出やすくなる傾向を表現した言葉です。要は、最初の取り組み方が大きな意味を持つということです。
「豊かな語り」の訓練も同様です。聴衆に向けて想いを語る経験のない初心者にとって、「豊かな語り」の習得を目指す初期の練習期間はとても刺激的で、かつ上達も顕著な「初心者ボーナス期間」です。私の研究室に所属した学生は最初の6か月間、徹底して「語る」トレーニングに徹しますが、その理由は、この「初心者ボーナス」を全員に獲得してもらうためです。
豊かに語る力を磨くトレーニングで大切なことは、少しでも良いので毎日継続することです。この点は、計画的な休息日が重要な筋トレとは違うところ。もちろん「習慣化すること」が大切なのは、語りの訓練も筋トレも同じです。美しい筋肥大によって肉体美を表現するように、「豊かな語り」のバリエーションを増やし、話者の魅力を十分に伝えられるように練習を継続しましょう。
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