勝てる英語スピーチの語数は、1分あたり111語。

1分120単語以上だと発音が滑り、100単語以下で聴衆は眠くなる。

※これは教員向け(教え方)の記事です。

「4分間の学生英語スピーチ、勝者の語数は1分111語。」そんな清水の研究データ(Shimizu, 2020)があります。単なる音読大会なら1分130語でも140語でも可能なのですが、目指すのは英語スピーチコンテストです。話者が「語り」を演じる時、そこにはスピード以上に大切な「理想的な分量」があることを指導してください。
※補足:日本語スピーチの分量は文字数で表記しますが、英語では単語の数(語数)で表します。

総語数は「111単語×時間(分)」を基準に考える

英語スピーチの指導者であれば「1分あたり話す語数は何語?」と質問されることがあるでしょう。英語スピーチやプレゼンの参考書を見ると、1分あたり100語から150語までバラバラで、学生は戸惑ってしまいます。1分150語は、英語母語話者のアナウンサーレベル。学生には到底無理な話です。

清水の研究(Shimizu, 2020)では、所属大学主催の「英語オラトリカルコンテスト」(大学の部)に応募された4分間の英語スピーチ(3年分80本・計約35,000語)について、言語統計と審査結果の比較分析を試みました。その結果、最終的に入賞したスピーチの「1分あたりの平均語数」(WPM: Words per Minute)は、111語でした。それを大きく上回っても下回っても、受賞を逃していたことも分かりました。

確かに、英語スピーチコンテストの審査員は、話すスピード(≒WPM)の適切さも評価します。しかし「1分あたり111語」という目安は、あくまでも統計的な結果論であって、1分111語を守れば入賞できるという意味ではありません。※補足:夏だからアイスクリームが売れるのであって、アイスクリームが売れるから夏になったわけではない、という理屈と同じです。

あくまでも目安としての「1分あたり111単語」。スピーチの制限時間が5分であれば、総語数は「111語×5分」で555語が目安になります。計算しやすく、わかりやすい基準として覚えておいてください。

適切なWPMを維持して表現力の質を守る

実践的な観点からみても、1分111語はなかなか的を射た数値です。実際、それより遅い100語前後になると、全体的にスローな語りで単調(monotonous)となり、聴衆は眠くなります。逆に1分120語や130語になると、(話者の英語力にもよりますが)語尾の子音が消えたり、二重母音が単なる長音になるなど、全体的な発音の精度が落ちます。

英語スピーチの基本語数は、111語×時間(分)。これは4分間スピーチでの調査例ですが、制限時間が10分以内の一般的なスピーチコンテストやプレゼン大会なら「1分111語」を基準にしておけば、まず大きな事故にはなりません。

よくある失敗は、滑らかに発話(発音)ができないうちから語数の多いスピーチに取り組むことです。そうなると、学生は内容を語るよりも英語の取り扱いに気をとられます。これでは感情の込もった語りを競うスピーチコンテストの指導としては本末転倒です。その観点で考えれば、中学生や高校生なら1分100語程度でもまったく問題ありません。

1分あたり120語を超える場合は慎重に

英語スピーチコンテストの審査員をしていると、WPMが130語を上回るスピーチに出会います。全国ファイナルの出場者であればその程度のWPMは確かに処理できます。しかし、それを聴き、理解する側の聴衆にとってはなかなかの負担です。

制限時間に収まる限り情報を詰め込むという話者本位の発想はやめて、必要な情報を厳選して適切な分量で伝えるという「聴衆本位の配慮」を指導するのが望ましいです。先生方それぞれに好みはあると思いますが、私はこれまでの経験から、まずは1分あたり「110語~120語」の幅に抑えておく方が無難だと考えます。

私の研究室の学生の場合、著名な弁論大会用の原稿であっても1分111語を基本に考えます。むしろそれより少ない原稿に仕上がることも珍しくありません。流暢に英語を扱える上級者であれば話は別ですが、一般的な学生の場合、無理に話すスピードを上げてまで内容を詰め込むことに本質的な価値はないと考えるからです。

同時に、WPMにはとても流動的な側面もあります。データや逸話の紹介は、話がスムーズで多くの語数(WPM)を処理できます。一方、話者自身が感情豊かに語りかける部分は、速度の低下に加えて「間(ま)」を多く必要とします。ゆえにWPMは伸びません。スピーチ全体の構成によってWPMは大きく変動することを、指導の際には思い出してください。

学生の成長と向き合い、無理のない語数を見極める。

スピーチの話者は、完璧なスピード調節が可能なロボットではなく、ふつうの人間です。しかも英語のプロではなく学習者ですから、最初は無理のないWPMを設定し、話者の「語り」を引き出す指導に重点を置いてください。それが結果的に、学生の自己肯定感を高める優れたスピーチ指導につながります。

学生のスピーチレベルが向上するにつれ、WPMは伸びてきます。またコンテスト本番では、緊張のために話すスピードは速くなります。英語スピーチの指導では、このような話者のWPMの変化を予測しなければなりません。そのためには、なるべく早い段階から指導に入り、共に練習を繰り返す必要があります。

スピーチの標準的な語数を尋ねられた際、教員が「1分あたり111語だよ」と明快に返答できると学生は心強いはずです。1分111語を基準にして、中学生・高校生なら100語、大学生の上級者なら120語と、常に「相手を見極めつつ」先生方が適切なWPMを指導してください。

(Reference)
Shimizu, T. (2020). A statistical analysis of award-winning speeches. Mukogawa Literary Review57(1), 29-53. [リンク]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です