英語スピーチのオープニングはジェットコースター式「緩スタート」が鉄則
スローな「緩(ゆる)スタート」が変化と興奮を呼び起こす

スリル抜群のジェットコースターも、始まりは恐ろしいほどゆっくりです。ゆったりしたスピードで始まるからこそ、その後の様々な変化に期待と興奮を覚えます。実はこの流れ、英語スピーチにも共通しています。どんなに速く、畳みかけるように訴えるスピーチでも、最初は驚くほどゆっくり。これは、ひとりの聴衆も残さず虜にする隠れたテクニックです。
最初から全速力では、聴衆は置き去りになる。
高い弁論技術を競う英語スピーチコンテストの審査員をしていて、とても残念に思うのは「出だしで急ぐ人」です。緊張なのか、いつも早口なのか、あるいはわざと速く話す演出なのか。思いは巡りますが、いきなり高速で話し始めた時点で、おおよそ入賞候補からは外れます。なぜでしょうか。
実は、コンテストでスピーカーが壇上に登場するとき、聴衆はいろんなことを考えています。次はどんなスピーカーだろうか、どんな話だろうか、上手なのかな、どんな声かな…。そんなことを考える間もなく、話者が早口で喋り始めると、聴衆は動揺してしまいます。
「一所懸命に話しているから仕方ない」というのは、感情的には理解できますが、実際にはスピーカー側の甘えでしかありません。早口でのスタートは、聴衆を置き去りにします。優れたスピーカーほど、聴衆への配慮を欠かしません。スピーチ冒頭のスピードコントロールはその最たるものです。
あのキング牧師も使っていた「緩スタート」
スピーカーが聴衆にとって最高の「推し」であれば、どんな話し方をしようとも、聴衆は全身全霊で、話者の言葉を聞き取る努力をするでしょう。しかし現実は違います。聴衆は話者のファンでもなければ味方でもありません。いきなり剛速球が飛んでくれば、動揺して倒れ込み、その場で置き去りにされるだけです。
気をつけるべきことは至ってシンプルです。スピーチやプレゼンのオープニングでは、「これでもか」というくらいにゆっくり話す。これだけです。胸を張って、ゆっくり、ゆったり。ひと言ひと言が聴衆の耳に届いていることを確かめながら話しましょう。
スピーチの名手として知られるキング牧師(Martin Luther King, Jr.)の有名なスピーチに、"I Have a Dream" [私には夢がある] があります。教科書や映像で切り抜かれるのは、アップテンポで情熱的に繰り返される "I have a dream that ..."というフレーズです。でも実は彼のスピーチの出だしは、エンディング部分の半分以下のスピードです。すなわち、それほどにスピーチの冒頭は、ひと言も漏らさずに伝え、聴衆を置き去りにしない配慮が必要なのです。
シャトルループ型 vs. 従来型ジェットコースター
話は変わりますが、ナガシマスパーランド(三重県桑名市)という遊園地に「シャトルループ」という人気のジェットコースターがあります。出発と同時に動き出すスピードは時速90km!そしてすぐに1回転する緊張感が人気の秘密です。
このコースターは私も大好きなのですが、これを「スピーチ」という観点で眺めてみると、この急加速はいささか問題があります。優れたスピーチは、超急加速のシャトルループ型よりも、従来型の「ゆっくり始まり、レール上で"様々な変化"が楽しめるモノ」の方が聴衆には優しそうです。
従来型コースターでの「様々な変化」とは、スピーチで言えば「緩急を織り交ぜる」ということです。「緩スタート」でゆっくり始めて、次第に速度を上げたり、途中で落としたり。あるいは声を大きくしたり、静かにしたり。優れたスピーチでは、伝統的なジェットコースターのような「変化」を無理なく演出するのが理想的です。
出だしはゆっくり。そして途中では豊かな変化を。テーマパークでジェットコースターに乗りながら、たまにはスピーチのことを考えてみてください!「キャァ~」と響く悲鳴は、スロースタートが生み出すコントラストのお陰かもしれません。
スピーチもジェットコースターも、「出だしはゆっくり」が興奮の源なんです。

お問い合わせ
講演会・セミナー講師、
コンテスト審査員、執筆のご依頼など