高級和牛をミンチにして勝手な味付けで素材を台無しにするスピーチ添削

上質の素材を見極めて、そのまま生かすのがプロの添削。

※これは教員向け(教え方)の記事です。

最高級A5ランクの牛肉が目の前にあれば、もう何の味付けなどせず、焼けばうまいワケです。それを何やらミンチにしてみたり、難しい味付けをしてみたり。スピーチ原稿の添削において、教員が面倒な「加工」をすればするほど、元来の素材感は失われていきます。たまには立ち止まり、「自分の添削は学生の素材感を活かしているだろうか?」と振り返ることも必要です。

スピーチ添削の鉄則は「素材を活かすこと」

日本国語大辞典』の定義によれば、"添削"とは「詩歌・文章また答案などに手を入れ、加えたりけずったりして改め正すこと」とあります。ここでのポイントは「正すこと」でしょう。なぜなら、何が「正しいか」は教員それぞれのモノサシがあり、一概に定義するのはなかなか難しいからです。

それでも、「英語スピーチの添削」に限って言えば、「著者=話者」ですから、著者の言葉運びや息遣いに敬意を払い、「本人だからこそ言える表現を生かすこと」が原則になります。そのうえで、スピーチとして成立させるために「欠けているパーツ」を見つけ出し、原稿全体にわたって言葉の色彩を整えるのが「正すこと」だと私は感じます。

当然ながら、話者自身の言葉は最高の素材です。自分で書いた言葉を自分で発表するわけですから、それはまさに「地産地消」。最高品質の素材が詰まっているはずです。教員はそれを活かすことに徹する。そのための工夫に知恵を絞りましょう。

「キラリと光る言葉」を見つけ出し、活かす。

私が学生のスピーチ原稿を添削する際、最も楽しみにしているのが「キラリと光る言葉」を探すことです。お蔭さまでこれまで多くの受賞者を育ててきましたが、受賞した作品には例外なくこの「光る言葉」があります。それは本人にしか言えない「手垢の付いていない言葉」や「本人だからこその視点を反映した言葉」です。

それがひとつでもあれば、大喜びです。必ずいいスピーチになります。説得型スピーチには、当研究室が推奨する基本的な枠組み「説得型スピーチ構造用紙」があります。ゆえに「キラリと光る言葉」が基本構造のどのパーツに該当するかを見極め、それを中心に原稿全体を見直します。この見直しを通じ話の流れを「正していく」作業が添削になります。

キラリと光る「話者ならではの表現」が複数みつかれば、それは学生の優れた才能の証です。それをしっかり褒め称えたうえで、その言葉や伝えたいメッセージに教員は余計な手を加えず、それらをうまく結ぶためのパーツを考えて「説得型スピーチ構造用紙」に落とし込みます。

つまり、話者らしい「光る言葉」が見つかれば、それをスピーチの「核」として据えるわけです。教員の仕事は、それをさらに輝かせるために、「他に必要なパーツ」を学生とともに考え、全体を形にしていくことです。

ひとつの比喩で"優勝"をつかんだ「輝く言葉」

実例を紹介しましょう。2024年の「第13回 城西大学英語スピーチコンテスト」で、研究室所属の学生が優勝を収めました。そのテーマは「戦争の終結」です。これは果てしなく大きな題材で、解決策の提示もありきたりの結論になりやすい、いわば「扱いにくい」テーマです。

それを優勝に導いた「輝く言葉」がありました。それが "Suppose the world is a big classroom." [世界は大きな教室なんだと思ってみてください]です。学生ならではの比喩を反映した「キラリと光る言葉」です。この言葉があれば、それを際立たせるように原稿を組み立てれば良いわけです。その後は、学生とともにスピーチ全体の添削に取り掛かりました。

学生らしい飾らない比喩表現が核となるわけですから、タイトルも極めてシンプルに"My Words for Peace"としました。要は、話者が持つ「素材感」を絶対に失わないこと。そのうえで、欠けているパーツを補っていくのが教員の仕事ということです。

「光る言葉」が見つからない時、どうするか?

学生の原稿に「光る言葉」が見当たらない場合、教員がそれを「発掘」できていないだけかもしれません。学生が「言語化」出来ていない中に、輝く原石が眠っていることが多くあります。そんな場合には、何度もしっかり原稿を読み解き、学生の「言わんとすること」を汲む必要があります。

それでも「光る言葉」の発掘が困難な場合は、学生との面談をお勧めします。教員が素朴な疑問を話者に投げかけながら、学生の心に内在する「光る言葉」を引き出すのです。

最も良くないのは、この「学生との対話」を省略して、教員が次々と添削をして原稿を改訂してしまうことです。これでは、そのスピーチが「他のオトナの言葉」に上書きされてしまいます。残念ながら、スピーチコンテストの審査員をしていると、無理やり「他人の言葉」を読んでいる学生を見かけることが少なくありません。

どんなに素晴らしい添削であっても、最後にスピーチをするのは学生自身です。話者が「自分の言葉」として語り切れる範囲を超えた「オトナな添削」は、結果として、話し手にも聞き手にも「納得感」を与えられません。

スピーチ原稿の添削は、「キラリと光る言葉」の発掘からです。そして、その表現をさらに輝かせるために、元々の素材感を失わない添削を心がけることも大切です。次回の添削の際に、ぜひ参考になさってください。


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