幻の新刊『スピーチとプレゼンは〇〇〇が9割!』
次のベストセラーを狙う二番煎じ・三番煎じのテーマを探せ!

書店に行くと『(ナニナニ)は〇〇〇が9割!』といった本が並んでいます。〇〇〇に意外性のあるキーワードを配置して、読者の関心を惹くウマい戦略ですね。ここはスピーチ研究者の端くれとして、次のベストセラーを狙うタイトルを考えてみましょう。目指せ100万部!目指せ印税生活!!
候補1『スピーチとプレゼンは内容が9割』
ストライクゾーン直球ド真ん中。確かに事実ですが、本のタイトルとしては普通ですね。このタイトルで売れるなら、きっと10年前に書いています。
9割とは言いませんが、全国規模の弁論大会やプレゼンコンテストの審査基準では、6割~7割が内容で決まります。それにちょっと盛って9割。あながちウソではありません。
英語でスピーチやプレゼンに取り組む人は、どうしても英語そのものや、スライドの出来などに関心が行きがちですが、大切なのは話の内容(contents)です。どんなに美麗な包装紙に包まれた贈り物でも、中身がショボければ意味がありません。それと同じです。
ということで『スピーチとプレゼンは内容が9割』では商業的に難しそう。ゆえに却下です。
候補2『スピーチとプレゼンは顔が9割』
あると思います(笑)。いわゆる「ただしイケメンに限る」という世界線ですね。
顔に限定するのはいかがなモノかとは思いますが、容姿は説得力に影響を与えます。アリストテレスの時代から、説得術にはエトス(ethos: 倫理立証)という観点が存在します。プレゼンターが発表内容に相応しい身なりをしているか、というのも説得力の一端を担うのです。
とはいえ「顔が9割」と言い切ってしまうと、やや炎上の香りが漂います。ここは『スピーチとプレゼンは容姿が9割』あたりでマイルドな着地を出版社に提案しましょう。
でも「容姿が9割」だと、もはやファッション誌ですから私に書けるハズがありません。ゆえに却下です。
候補3『スピーチとプレゼンは声が9割』
なかなか現実的になりました。自信がなくても声が出せれば大丈夫。多くの人に自信を与えるので、売れそうです。そもそも自信がなければ声は出ないかもしれませんが…。
スピーチの世界では、豊かな声量で話す技術をボイス・プロジェクション(voice projection)といいます。難しい響きですが、要は「聴衆にしっかりと届く声かどうか」を判断する基準です。コンテストでも当然に声量は審査されます。
声は自信を表します。でも終始シャウト調で話されても耳が痛いだけです。声は、いつも大きければ良いというものではありません。ゆえに声が9割というのは、ちょっと断定的すぎるかもしれませんね。やはり却下です。
候補4『スピーチとプレゼンは母音が9割』
英語関連の書棚にぴったりのタイトルが来ました!まぁ母音でも子音でもいいのですが、英語が苦手な人にさらに追い打ちをかける緊張感あふれるタイトルです。営業的にはアリかもしれません。
母音や子音が曖昧になる、というのは「プレゼンあるある」です。特に、母音ではエィやオゥといった二重母音がエーやオーの長音に化けるケースが圧倒的。語尾の子音が飛んで無くなるのもスピーチの風物詩です。このあたりは気を付けておきたいポイントですね。
とはいえ、スピーチでもプレゼンでも英語の発音そのものには本質的な価値はありません。どうやらこれも却下です。
候補5『スピーチとプレゼンは人柄が9割』
いいところに来ました。これは正解です。結局、その人の魅力が大切。まさにその通りです。
発表が上手ではなくても、一所懸命に伝えようとする発表者は好感が持てますよね。反対に、超流暢な英語でバリバリのプレゼンショーを披露するスピーカーが、どこか人間味に欠けて映ることもあります。人間は完璧な存在ではありませんから、不完全さの無いものには抵抗を感じるのかもしれません。
終わったあとに「感じのいい人だったね」というコメントをもらえれば、また次のチャンスもあるように響きます。逆に「プレゼンはいいんだけど、どうも人柄がねぇ…」という場合も。こうなるとこの時点でゲームオーバーのフラグが立ちそうです。
上述のとおり、発表内容はとても大切です。でもそれを聴衆に聞き入れてもらえる「人柄」が同時に備わっていなければ、内容も伝わらないでしょう。
そういう意味で『スピーチとプレゼンは人柄が9割』は、良い響きです。でも良い人柄って何なのでしょうか??
そこで目指すは『スピーチとプレゼンは誠実さが9割!』
ということで、コレです。「誠実さ」が9割。結局平凡ですみません。でもこの平凡を実行できている人は、そう多くないのでは?と感じます。
誠実さ。英語ではsincerityと言います。誠実(sincere)であるとは、つまるところ genuine (本物)であり、つくりモノではないということです。この言葉は、私がスピーチコンテストの審査員をする際に、大前提としている概念です。
誠実であれば、言葉を選びますし、発表の作法にも思いを巡らせます。それ以前に、お客さんとの対話に相応しいテーマを選んで提示してくれるはずです。すべての発表は、話者の誠実さの上に成り立っているものです。
『スピーチとプレゼンは人間力が9割』の方が売れそうなので迷いましたが(笑)、やっぱり基本は「誠実さ」。人間力も、誠実さがあってこそでしょう?
ということで、スピーチやプレゼンのことなら、どんなタイトルでも1冊は書ける気がしてきました。売れそうな企画をお探しの編集者の皆さま!いつでもこちらの「お問い合わせ」からご連絡ください!!