スピーチは引き算。何を言うかより、何を言わなくても良いかで考える。
制限時間は「足して埋める」ものではなく「引いて収める」もの。

英語スピーチやプレゼンテーションの原稿を考えている時、制限時間に満たなくて「何を足そうか」と考えたことはありませんか? 話題を付け足して制限時間が満たせても、どこか焦点が曖昧なスピーチになってしまうことがあります。限られた時間でメッセージを伝えきるには、相対的に不要なモノを削ぎ落とすことが不可欠。何を足そうか、よりも『何が削れるか』の方が実はとても大切です。
スピーチの骨格は「話題の引き算」によって引き締まる
スピーチやプレゼンには制限時間があります。その制限時間を意識することは大切ですが、それを満たすことばかりに気をとられると、実際にはあまり重要ではない話題が原稿に紛れ込むことがあります。必要なのは、「あってもいいけど、なくてもいい情報」を思い切って削ることです。
話者は、話題を増やすときに「安心」し、削るときには「不安」を覚えます。とりあえず話題を盛り込む「足し算」をしておけば、漏れのない話ができていると感じるからです。でもこれは聴衆からすれば逆効果。純粋に必要性が低い話が続けば集中力が持ちません。
だからこそ、スピーチは「話題の引き算」によって洗練されます。執筆段階では頑張って中身を膨らませますが、ある程度原稿がまとまったら、適宜、何か「削れる話は無いか」を精査する必要があります。
膨らませた原稿を削るくらいなら、そもそも膨らませる必要が無いのではないか、という意見もあるでしょう。確かにそうかもしれません。しかし、「ある話題」に関する逸話や論証材料などをいろいろ付け加えてみて、初めて「その『ある話題』自体が不要なんじゃないか」と気付けるものです。
最も避けるべきは、制限時間を埋めることばかりに注力する「スピーチの足し算」です。何となく形になったと思う時点の原稿は、概ね「必ずしも重要ではない話」が混ざっています。それを意識的に検証し、必ずスピーチの「引き算」を実行することが大切です。
引き算を必要とする「削れる話題」の傾向と対策
基本的なことですが、説得型スピーチで議論できるメイントピックは一つです。それを支えるのは、関連する話題や論証材料、さらにそこから導かれる解決策などがあります。そこでの関連性や必要性が薄いものや、本題とは別軸で語られているような話題は、スピーチの「引き算」で削るべきポイントになります。
引き算のプロセスで削られる対象となりやすい、よくある5つの例を以下に紹介します。
1) 長いイントロ
これはよくあります。スピーチ全体の「ムード」を高めるために、つい脚色を過剰にしてしまう例です。"Cut to the chase!" [とっとと本題へ行け!]という英語の慣用表現がありますが、イントロが長いと聴衆はイライラします。究極的には、イントロは次の話が右へ行くか左へ行くか、ストーリーの方向性を示せればそれで十分。長くなったイントロは、どんどん削ってください。
2) くどい逸話や経験談
スピーチに、話者独自の逸話や経験談を織り込むことは、"personal touch" [その人らしさ]としてプラスに評価されます。しかしそれが不必要に長くなると、聴衆はすべてのストーリーを把握し、ついていくのに苦労します。逸話や経験談は、あくまでも本題を脚色・補強するために用いるものですから、最低限の分量にカットしてください。
3) 過剰な論証材料
過去記事「英語弁論大会の審査員が感じる「終わりが見えないコース料理」の不安」でも触れましたが、論証材料は、ある話題につき、一つか二つで十分です。論証材料の数が多かったり、「何が何を論証しているのかが曖昧になるほどの複雑な語り」は、迷わず「引き算」の対象です。
論証なしに説得は不可能ですが、論証が多ければ説得が成立するほど単純ではありません。多すぎる論証材料は、スピーチの論証構造を複雑にし、聴衆をかえって混乱させる場合があります。
4) 複数の振り返り
スピーチの途中で、これまでの話題を振り返ることがあります。「伏線回収」といったニュアンスの場合もありますし、単純に「論点の反復(repetition)」ということもあるでしょう。ただ、これが何度も繰り返されるとストーリーが往復し、流れが複雑になります。スピーチの大原則は「一点突破で直進すること」です。振り返ったり、話題を戻したりする時は「軽く振り戻す」程度にシンプルに整理しましょう。
5) 話題の枝分かれ
メインの話題が「一点突破で直進」し、論証材料が適切に配置されていても、新たに持ち出した話題の比重が大きいと、当初のメインの話題から枝分かれしたかのような構成になります。これは、最初は論証材料のひとつに過ぎなかった話題が、改訂とともに重要な意味を持ってしまった時に起こりがちなミスです。
また、スピーチの途中で意図的に話題転換をして、結論に向けてメインの話題と合体させることを狙う場合でも、後者の比重が大きすぎると、全体として話題が枝分かれした印象を与えます。
これら2つは、いずれも「何がメインか」を軸に据えて、全体を「引き算」することで改善できます。
スピーチの基本は「引き算」です。何を言うかよりも、何を言わないか。「何を削れるか」がスピーチの精悍さを左右します。「何となく長くなったな」「とりあえず制限時間を埋めてみたけど締まりがないな」と感じた時に、ぜひ「スピーチの引き算」を試してみてください。
▶ 関連記事:英語弁論大会の審査員が感じる「終わりが見えないコース料理」の不安 [リンク]
▶ 関連記事:「大事なことなので2度言いました」はスピーチでこそ使うべき"論点反復の技" [リンク]