普遍的なテーマの英語スピーチは難しく面白い

生命・愛情・幸福など、人として普遍性を問う永遠の挑戦。

誰もがその価値を認める一方で、誰もが異なる価値基準を持つのが普遍性のあるテーマです。たとえば、生きることや愛すること、家族や友人の大切さなどは、普遍的なテーマの代表例。説得型スピーチの題材として、こうしたテーマは選ばれやすい傾向にありますが、思いのほか扱いにくいテーマでもあります。

取り組みやすそうな普遍的な話題ほど、説得は難しい。

「幸せとは何か?」という問いは、哲学者でさえも答えるのが難しいテーマです。それを数分間のスピーチで議論し、人を納得させるのはなかなか挑戦的な試みになります。それでもこういうテーマを選ぶ人がいるのは、それだけ普遍的なテーマが身近に存在しているということでしょう。

普遍的なテーマを説得型スピーチの題材に選ぶ場合、多くはストーリーテリング(storytelling)のアプローチをとります。たとえば何かのきっかけで大切な友人を失ってしまい、そのことで初めて友人の大切さに気付いた、といったようなお話です。

中学生や高校生が「個人的経験から自分の気付きを共有する」のが目的であれば、自分の経験を語り、それに根差した発見を聴衆に伝えればそれでスピーチは完成です。ただしこれは説得型スピーチ(persuasive speech)ではなく、あくまでも情報提供型スピーチ(informative speech)としての完成です。

これを説得型スピーチへと発展させるには、話題の展開に明らかな独自性(originality)と、聴衆の行動変革を促すための明確な根拠や必要性、そして解決策が必要です。個人的な経験を共有するだけでは、説得材料としては不十分ということになります。

普遍性の勝負は、人間力の勝負。

一般論として、普遍的な題材はストーリー展開が似たようなものになりやすく、独自性を失いやすい傾向にあります。普遍的なテーマは、聴衆にも何らかの接点があるからこそ、結論が想像されやすいのです。

英語スピーチコンテストで普遍性の高いテーマが続くと、「衝撃体験談コンテスト」のような色合いが濃くなります。冒頭で「最愛の家族を亡くした」といった衝撃的なストーリーが披露されると、確かにその時は聴衆の関心をひきつけます。でもその衝撃だけでは聴衆の関心を維持し続けることはできません。

命の大切さや愛情の尊さに気付いたスピーカーが、そこから何を感じ、何を語るかが大切です。その訴えには独自性・客観性・共感性がなければいけません。統計的観点からドライな話をすれば、話者に何らかの不幸があったとしても、聴衆に不幸が起こることはありません。それゆえ「自分の衝撃ストーリー」だけで他人を説得するのは難しいのです。双方を隔てる感情の壁を乗り越えるには、話者自身の人間力が必要です。

人間力とは、それこそ「普遍的価値」の総合技です。聴衆への愛情や、自己を顧みる謙虚さ、森羅万象に素直に感動する気持ち、これらすべてがスピーチにおける人間力を構成します。普遍的なテーマで勝負する時は、「自分は〇〇な経験をした〇〇な人間だ。だからこそ、皆さんにはぜひ〇〇を考えて、〇〇な行動してほしい」という感情を率直に語りかけ、聴衆の共感を乞う誠実さが必要です。これが、普遍的テーマを扱う難しさでもあり、醍醐味です。

英語スピーチを学ぶなら一度は普遍的テーマに挑戦を

普遍的なテーマの取り扱いが難しいということは、それだけスピーカーを成長させるということです。説得型スピーチを学ぶ人にとっては、ぜひ一度は挑戦してみる価値があります。

お恥ずかしながら、私が高校時代に初めて学外のスピーチコンテストに出場したときのタイトルは "True Happiness" でした。今思えば絶対にありえない超普遍的なタイトルです。でもそれなりにスピーチとして形になったのは、高校生だった自分が、妥協なく「幸せ」というテーマと全力で向き合っていたからかもしれません。

いつの時代も、人の心を動かすのが誠実な熱意であるとするならば、それもまたスピーチが持つ普遍性の面白さだと言えるでしょう。

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