英語スピーチやプレゼンの指導は「ひと言で言えるか」を尋ねて確認
スピーチをする「真の目的」の言語化を教員がサポートする
※これは教員向け(教え方)の記事です。

英語スピーチやプレゼンテーションの指導において、学生にぜひ尋ねてもらいたい質問があります。それは「何を伝えたいか、ひと言で言える?」です。発表時間の長短に関わらず、本当に伝えるべき主張が学生の頭の中でしっかり定まってないと、結局は強いプレゼンにはなりません。この質問への回答をヒントに、今後の指導をどう調整すべきかを一緒に考えてみましょう。
回答の具体性を判断することで指導のヒントを得る
「何が言いたいか、簡単に言ってみて」という教員の問いに対する正解はひとつではありません。それでも、模範的な回答はあります。それは「何を(問題点)」「何で(解決策)」「どうするか(未来図)」の3つの要素がコンパクトに言い切れていることです。
たとえば、過剰な観光客の増加状態を指す「オーバーツーリズム」(overtourism)をテーマにプレゼンやスピーチを計画する場合には、次のような模範回答が考えられます。
- 何を:観光客による交通渋滞を、
- 何で:地元優先道路の設置で、
- どうするか:地元住民の日常生活を守る。
とてもコンパクトに主張がまとまりました。スピーチの「骨組み」としては簡素過ぎる印象すらありますが、ここまで端的に整理できるということは、それだけ話の方向性が明確に定まっている証です。当然ながら、解決策の実現可能性などを精査する必要はありますが、このような明確な方向性が示されれば、あとは順番に、それぞれの具体例を確認しながら「骨組み」に肉付けをしていく作業に入れます。
しかし、ここまで明快な答えを返す学生はそう多くありません。以下に、学生からの「よくある回答」の例を4つ紹介します。これらの回答例から、教員が察知すべき指導上のポイントを検討してみます。
回答例1「オーバーツーリズムについてです。」
「何が言いたいか、簡単に言ってみて」という問いに「テーマ」だけを回答する学生です。このような学生には、さらに教員が「どうやって解決するの?」「何のためにそれをやるの?」と、不足する骨格部分をひとつずつ確認していく必要があります。
テーマだけをひと言で答える学生と話をすると、「これはいろいろ難しくて…」という言葉をよく耳にします。これは「リサーチ不足」の裏返しです。続く解決策とその未来図を、学生が明確にイメージ出来ていない場合、テーマも「思いつき」のレベルで留まっていることが多くあります。「他にはどんなテーマを考えてみた?」と尋ねるなど、他に有力なテーマが検討できないかを探ってください。
回答例2「観光地の観光客が多いので減らそうというスピーチです。」
これも、[例1]を別の言葉で説明しただけのレベルです。基本的な対応としては、[例1]と同様に「解決策」と「未来図」を確認していくことになります。
一方、このような回答があった際に注意すべきは、観光客を「減らす」ということ自体が目的になっていないかを確かめることです。もちろん、観光客を減らす(あるいは制限する)のは「目的のひとつ」ではありますが、それ自体が「スピーチの真の目的」ではないはずです。
何らかのニーズがあるから観光客を減らす必要があるわけで、スピーチの「真の目標」はその先にあります。教員はその点を学生に説明する必要があります。
回答例3「観光税を導入して、街を整備しようと訴えます。」
「観光税の導入」という具体的な提案がある分、一見すると明確なメッセージがあるように感じられます。しかしよく考えれば、「何のために観光税を課すのか」「何のために街を整備するのか」といったスピーチのゴールが[例1] [例2]と同様に明確ではありません。
このような学生に、あえて「その目的は?」と尋ねると、「街の整備です」と先ほどと同じ言葉が返ってきたり、「税金を高くして観光客を減らします」といった答えが返ってきます。これらの回答は、先の例と同様にスピーチの「真の目的」が忘れられている、あるいは「手段を最終的な目的と誤解している」可能性を示しています。
教員としては、この時点で、学生が「何のためにスピーチをするのか」を改めて確認し、必要に応じて学生の頭の中にある情報を整理させることが必要です。
回答例4:「ボランティアを募り観光地での人員誘導を提案します。」
「ボランティア」「観光地」「人員誘導」など、具体的な言葉が並ぶと、聞き手は「なるほど」と感じがちです。でもお気づきの通り、この回答にはこれまでの例と同様に「何のためか」という視点が抜けています。一方で、ここまで具体的に考えられている場合、その「真の目的」を言語化できていない(あるいはし忘れた)だけかもしれません。この点を見極める必要があります。
そんな場合には「違う言い方で説明できる?」と確認すると、学生の視点がよくわかります。それでも「真の目的」が見えてこない場合には「それは何のための人員誘導なの?」と改めて尋ねる必要があります。
ここで、「オーバーツーリズムによる観光地の混雑を緩和するため」という目的が回答されたとしたらどうでしょうか。これは非常に騙されやすい回答です。「勝てるスピーチを発表する」という前提にたてば、指導者としては、これでは「目先の混雑」は解消されても「根本的な解消」には至らないことを指摘しなければなりません。
さらに「ボランティア」という言葉は響きもよく、解決策で好まれる選択肢ですが、持続可能性という観点を考慮すればなかなか困難な提案です。この点についても「きれいごとで終わらせない」というスピーチの矜持を指導していただきたいところです。ぜひ、「そのボランティアは、1年後も続いていると思う?」と学生に尋ねてみてください。
学生がイメージを形にできるようサポートする
こうして教員と学生が、スピーチで伝えたい主張を「ひと言で整理できるか」を追求するにつれ、伝えたいメッセージの骨格がハッキリと見えてきます。最終的なスピーチの良し悪しは、骨格だけでなく、どのような支持情報(論証材料や逸話)を盛り込むかが重要になりますが、まずは「明解な方向性を言葉にすること」がスタートです。
この段階になれば、テーマ自体は決まっているわけですから、その主張が最終的なスピーチとして形になるかを教員が判断するのです。建築物でいえば、大まかな設計図を頼りに、最終的な建物の建築が可能かどうかを見極めるような作業です。
この段階で、しっかりとした骨組みが見えない場合には、見えるまで議論をした方がよいです。リサーチを始め、原稿が出来上がってくる段階で「スピーチとして成立しない」あるいは「論点が弱い」ということに気付いても、誰も幸せにはなりません。
「何を伝えたいか、ひと言で言える?」このシンプルな問いをきっかけにして、学生の思考の骨組みを補強し、その「真の目的」を明確にする。このコミュニケーションの中に、学生のスピーチを格段に強くするための秘訣が隠されています。
学生のスピーチ指導は、彼らが「何を伝えたいか」をひと言で整理できるかどうかにかかっています。
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